落語全集の紹介。最後の下巻。
前書きは「浮世哲学」。
執筆者は、人呼んで「外務省の名物男」、小村欣一。
外務大臣、小村寿太郎の息子さん。
ウィットに富んだ文章がなかなか面白い。
かなり粋な官僚だったようですな。
「努力は結構だが世の中の状態を無視して自分ひとりが決めた、
最善の努力もまた必ず成功するとは限らない」
日露戦争のポーツマス条約で、ロシアから賠償金を引き出せなかったことから
(もっとも日本には戦争継続の余力はなく、形式上の「勝ち」を引き出すのが精一杯だった)
マスコミが見積もった多額の賠償金に、「賠償金!賠償金!」となっていた
日本国民の批判を一身に浴びた小村寿太郎。
その息子の言葉と思えばまた重みが違ってくる。
「人情の機微、世態の妙諦というものは単なる文字や、言語では、
中々呑み込めるものではない、いわゆる浮世哲学が必要である」
「落語の中には、深遠微妙な人情と、世態の真相を巧みに、物語っているものがある」
ただの「お笑い」ではない落語の本質を語りつつ、
社会の真相を見つめなくてはならないというメッセージを伝えています。
こういう論理と興趣の双方に通じた、実社会に有益な人物が、
現代の官僚や政治家にはいないものでしょうか。
昭和四年十二月十日 発行とあり、初版本なのですが、
右下に (非売品) の文字が…
祖母が、どういういきさつでこの落語全集を手に入れたのか、
今となっては永遠の謎です。
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