2012年5月21日月曜日

30年目の「大工調べ」

先日は落語講座へのいっぱいのお運び、ありがとうございました。

今回の演目は「大工調べ」。

『家賃を滞納したために、道具箱を大家に持っていかれた大工の与太郎。
仕事に出てこない与太郎の様子を見に来たのが大工の棟梁、政五郎。
今は持ち合わせがないけれど、自分に免じて道具箱を返してくれと
大家に頼みこむのですが、言葉の行き違いから争いとなります。
政五郎は与太郎を連れ、奉行所へ「お恐れながら」と訴えてでますが…。』

話の登場人物は、「与太郎」、「政五郎」、「大家」、「お奉行様」

この中でも与太郎は「馬鹿で与太郎」なんて言われ、
呑気でぼんやりした人間の代表として、色んな落語に登場します。
そして落語には「人情噺」、「長屋噺」というような分類がある中で、
「与太郎噺」というジャンルもあるほどの人気者。

そういえば、私が志ん朝師匠に最初に教わったのも
「酒の粕」という与太郎の出てくる小咄でした。

落語家の世界では、物忘れや間抜けなしくじり(失敗)をすると、
「馬鹿だねえ~」の代わりに、
「与太ってるねえ~」なんて言われたりしましてね。

落語によって「与太郎」の性格はかなり変化するのですが、
私はこの「大工調べ」の与太郎が一番好きです。
只のバカではなくて「物語」に調和をもたらす存在になっています。

「大工調べ」は、私が小学3年生の時、初めて自分の小遣いで買った
古今亭志ん生師匠のレコード(当時1300円)に入っていた演目。
そして初めて人前でやった噺です。で、今回の上演は小学生以来30年ぶり。

この話の一番の聞き所は、棟梁が大家に向かって切る「啖呵」。

大家の悪口を並べ立てるのですが、
ポンポーンと飛び出す、立て板に水の江戸弁の啖呵は、
嫌味がなくって、そのテンポと調子が実に気持ちいい。

この啖呵というやつは「江戸弁」という表現方法が肝心だったりします。

これを標準語でやったりすると、「早口の暴言」になってしまい、
完全に笑いの質が変化してしまいますし、「暴言」を向けてもいいようにと、
大家を悪人にしてしまうと、聞いてて本当に嫌な気分になったりもする。

「古典芸能」の表現方法が、なぜそうなっているのかに目を向けてみると、
人が人に向けるべき適切な表現
を現代の私達に示してくれることがあります。間違っている場合も含めてですが。

実は啖呵を制御するには「技法」だけでなく、もうひとつ大切なことがあります。

小学生の私は思い知らされることになるのですが、それは次回の講釈にて。

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