2011年10月8日土曜日

代替医療と徒弟制度

前の記事で『代替医療のトリック(新潮社)』について書きました。
今回はどのような科学的根拠を提示されても代替医療が
「自分の治療は絶対正しい」
と思考停止してしまっている理由について考えます。

「師匠がカラスを白いと言ったら、お前も白いと言わなくっちゃあ駄目だよ」
これは私が落語家になる前に言われた言葉です。

落語家や植木職人といった世界では徒弟制度というものが残っています。
弟子入りして師匠の身の回りの世話をしながら色々教わっていく。
そこでは師匠の言う事は絶対的な力を持ちます。
どんなに理不尽でも師匠の言う事には「ハイ」と言わなくてなりません。
もし文句を言えば破門され、道が閉ざされてしまうからです。
そしてその力関係は生涯続きます。

師匠に逆らわず、言われた通りの事をそのままやっていくというのは、
技術の継承という点では優れている部分もあります。
しかし教えられたことが間違っていた場合は、間違いも受け継ぐ事になります。

そして代替医療の多くは「徒弟制度」的な部分が色濃く残っています。
かつては医学界もそうした面を強く持っていました。(今もありますが)
偉い先生は神格化され、絶対視されている事が少なくありません。

その先生が、「あらゆる病気はこの治療で治せる!」
と宣言した場合、誰も反論が出来ず、
それが検証もされないまま受け継がれてしまう事があります。

カイロプラクティックの創始者、D.D.パーマーは
「あらゆる病気の95%は、椎骨(背骨)のズレから生じる」
そう述べています。そしてそれはカイロプラクティックで治せると。
これは約100年前のことです。

そして程なく日本にカイロプラクティックが入って来ました。
ほねつぎの先生など日本の手技を用いる代替医療の施術家の中には
カイロプラクティックを取り入れる人もいました。

その結果、「病気は椎骨のズレから生じる」という説が伝わり、
「カイロプラクティックが治せるなら、うちのやり方でもいける」
という便乗派も含めて、徒弟制度の中でその説が受け継がれてしまった流派が、
今でも、「なんでも治せる」と宣言をしている場合があります。

もちろんそれ以外の流れで、自分の施術を過大評価している代替医療は
無数にありますが、基本的に
「創始者、偉い先生が治ると言っているから」
という考えが元になっています。

アメリカ由来であるカイロプラクティックは
現在は「何でも治せる」とは言っていません。
団体が大きくなる中で精査が進んだということもあるでしょうが、
こうした傾向は封建社会が長く続いた
日本ではより強く見られるものかもしれません。

私は昔、「なぜそんないいかげんなことを言うのか」と
大言壮語する代替医療に怒りを禁じ得ませんでした。
しかし自分のしていることに疑問を持ちにくい制度があり、
それがそこから脱する事が困難なシステムであると気付いてからは、
冷静に見る事ができるようになりました。

私に出来る事は、そういうシステムの存在をきちんと認識し、
自分のできることを把握し、正しい判断をする。
そういった視点を持ってください、と言い続けることだけです。

しかし問題は他にもあります。施術家の目を曇らせる
「代替医療に過度の期待をする人々」の存在です。

それはまた次回のお話。

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