2011年11月7日月曜日

腰痛治療の変遷、NHK「きょうの健康」を見て

今日は腰痛の話、そして少しばかり長文です。おもろい話ではありません。

医学界における腰痛治療の考え方はここ数年で大きく変わっています。
以前は、腰痛は脊椎の異常によって起きる、というのが医学界の常識でした。
その中で代表的なものが「椎間板ヘルニア」です。ヘルニアの詳細は→コチラ

ところが、腰痛の研究を進める中で、全く症状のない健康な人の
腰を検査するとヘルニアが存在する事がわかってきました。
痛みのない多くの人にヘルニアがあるという事実が判明した事から、
ヘルニアは腰痛患者特有の異常とは言えなくなりました。

研修医向けの医学書である『整形外科研修なんでも質問箱145』(南江堂)においても、
画像診断で椎間板ヘルニアがあることを理由に手術を勧めること、
手術で痛みをとりましょうと言うことを
「医師が絶対にしてはいけないこと」 としており、
「結果として、痛みが取れることもある」 と書かれています。

先週のNHK「きょうの健康」を見て時代が変わったなあと感じました。
『組み合わせが大切』と題しまして、一週間で3人の先生が出演して、
それぞれ自分が適切と思う腰痛治療方針を述べていました。

- (どんなに強い痛みが長く続いていても)痛みだけで手術すべきでない
- 画像診断をあまり重視するな
- 心のケアが大切
- 運動で脳を鍛えて痛みを軽減

どの先生の主張も、単体では腰痛の原因を説明できるものではありませんでした。
どの治療が合うのかもやはりはっきりしませんという状態。
でも「組み合わせる」ことで改善する確率は上がると。
とにかく「腰痛の原因はこれだ!」なんて単純な原因追求をすることが
間違いだったと認めざるを得なくなった。
様々な事実が周知されてきたことで、医学界も方向転換を図っています。

しかし、今まで「腰痛はヘルニア(脊椎の異常)が原因だ!」
と喧伝してきたことに対してはなんの弁明もありません。

私は腰痛で手術を行なった後に、「手術をしなければよかった」と後悔されている方を
今までに300人以上は見てきています。
作家の渡辺惇一が自分が元整形外科医であることを週刊現代のコラムで述べたところ、
「腰の手術をしてひどくなったが、どうしたらよいのでしょうか」といった内容の手紙が
山のように届いたという話がその次の号のコラムに書かれていました。

その方達は「手術をすれば絶対に腰痛が治る」という認識で行っています。
結果は「痛みはとれない」、そのことを医師に話すと、とてもいやな顔をされる。
「ヘルニアはきれいにとったから、痛いはずがない。あなたはワガママだ!」
などとなぜか人格攻撃されて、深く傷ついた人は少なくありません。ホントに。

ただ、医者の方にしてみれば、ヘルニアが神経に当たっているように
画像では見えるんだから、物理的に考えて相関関係があるのは間違いない。
実際に良くなる人もいるし、なにより教科書に
「ヘルニアによる神経圧迫を除けば痛みはなくなる」と書いてある。

だから手術によって「痛みがとれない」ということはあってはならない、
そのことを想定すべきではない、としているので、
手術後に「痛い」という人は大変不都合な存在なのです。
また原因は排除されたのですから、それ以上何もできないわけで。
結果、「手術したのに痛いという患者はおかしい」と責任転嫁して攻撃してしまうことにもなる。

本当は手術をしても痛みが取れない人のケアこそが大事なのですが。

民放のTVで「スーパードクター!」みたいな番組で腰の手術をする医師はあまり出なくなりましたし、こうしてNHKでも「ヘルニアが原因だから手術を」とは言わなくなりました。
「どうも間違ってたみたいだから、勧めるのはやめよう」ってなわけです。

しかしなぜ考えが偏って、腰痛手術はデメリットの方が大きいとヨーロッパなど様々な論文で報告されているのが見過ごされたのか、なぜ患者の声にもっと早く耳を傾けなかったのか、といった検証はなされていません。おそらくこれからもないでしょう。誰も責任を問われない。

「偉い先人が正しいとしたことは、間違いだとわかっても否定しにくい、
自分も言われた事を信じてやってきた共犯者だし」
そういう理由もあって、一旦正しいとされた学説は間違いとわかっても否定されにくい構造があります。しかしその視点は患者側のものではない、ということだけは明らかです。

なぜ間違えたのか。
なぜその説が支持されたのか。
なぜ医学界やマスコミは事実を早く知らせなかったのか。
そういう検証を避けて、しれっと「最近はこういう学説があります!」
なんてやっても、「また同じ間違いをするのでは?」という疑いは晴れず、
やはり信頼はされないのではないのでしょうか。

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